ギャンブル依存症対策を推進する条例案が、10月26日に大阪府議会で可決された。ギャンブル依存症対策の条例の成立は、全国で初めてのことだ。なぜこの条例が出来たのか?
知事がトップの推進本部、財源確保のため基金
大阪府と大阪市が誘致を進める、カジノを含む統合型リゾート=IR。2029年の秋から冬ごろに夢洲での開業を目指す中、課題となっているのがギャンブル依存症の対策だ。
5月に開かれた、ギャンブル等依存啓発週間シンポジウムでは…。
ギャンブル依存問題を考える会 田中紀子代表:
近くにギャンブル場ができると、絶対ギャンブル依存症率が高くなるんです。だからこそ、大阪府は他県に先駆けてもっと、今の100倍ぐらいのギャンブル依存症対策をやらないきゃ間に合わない
こうした声を受け、自民党府議団は5月にギャンブル依存症対策に取り組む条例案をいち早く提出したが、議会で否決。
一方、議会の過半数を占める大阪維新の会府議団は10月11日、知事をトップにした推進本部の設置や財源を確保するための基金を創設する条例案を提出した。
10月26日の議会では…。
自民党 大阪府議団 原田亮幹事長:
討論で財源の裏付けがないから、我々の条例案には反対するとのご意見をいただきました。もし万が一、基金に寄付が集まらず目標金額を達成することができずに、条例で規定された施策が実行できない場合、どのように対応されるのか?
大阪維新の会 府議団 笹川理議員:
基金というのは、この条例案の内容をさらにプラスアルファしていく部分で、依存症者の条例を全てこの基金で賄うという発想ではありません
こうした応酬もありつつ、維新の条例案は可決された。
かつて自身もギャンブル依存症に…当事者はどう見るか
今回の条例案について、「ぼんやりしているものができたなと思いました」と語るのは、ギャンブル依存症の民間支援団体の代表・田中紀子さん。自身も夫婦でギャンブル依存症になり、回復した経験を持つ。
ギャンブル依存症問題を考える会 田中紀子代表:
ギャンブル依存症が末期になった時には、1回行っちゃうと、1日で200万円とか使うようになった。子供たちの幼稚園の月謝6000円を滞納してしまうとか…。そんな引き裂かれるような自分ですよね。自分でも何をやっているか理解できなかったし、「病気だ」って言われた時には「そうだったんだ」って救われた気持ちになりました。病気への正しい理解が本当に必要だと思っています
田中さんは各党の府議を招き、ギャンブル依存症のシンポジウムを開くなど条例案の策定に力を注いできたが、今回の条例案は「外枠ができただけ」と指摘する。
ギャンブル依存症問題を考える会 田中紀子代表:
条例をいかに実現させていくか、そこを担保していくか。この条例に魂を、命を吹き込んでいくというのが大切なので。具体的なことをどう取り上げていって、どう前進させていくのか。誰が責任を持って、どの程度のタイムテーブルで行われていくのか全く見えない状況なので、それをいち早く示してほしいと思います
「警察や病院との連携が必要不可欠」条例の内容は
全国で初となる、ギャンブル依存症対策に関する条例。支援拠点を整備して依存者やその家族のための相談・社会復帰を支援することや、施策実行のための基金の設置、専門家会議の設置などが盛り込まれている。
「ギャンブル依存を考える会」の田中氏は、「民間、保健所、病院、警察が連携して当事者をサポートすることが重要」と指摘する。
ギャンブル依存症の人は、衝動的に自殺を図るケースもあるということで、そういった事態を阻止するため、警察や病院との連携が必要不可欠だという。
シンガポールではカジノ設置前より依存者が減少
こういったギャンブル依存症の対応の先行事例が、シンガポールにある。
カジノのあるシンガポールには、「国家依存症管理サービス機構」という国の施設が設置され、年中無休、24時間体制で患者への電話相談が行われている。専門の医師はもちろん、同じ依存症の患者同士でのカウンセリング、カジノに入れなくする手続きの相談なども受け付けているそうだ。
この機構を設置したシンガポールでは、競馬や他の賭博を含むギャンブルの依存者数が、カジノができる前より減少したということだ。
ギャンブル依存症対策に関する条例について、菊地幸夫弁護士の見解は。
菊地幸夫弁護士:
日本はカウンセリング分野が弱いように思います。カウンセリングに行っても効果がないと、我々弁護士に相談に来る方も多いんです。また、「外枠だけしかできていない」という意見もありますが、具体的な中身を条例に盛り込むのは難しいと思うんです。条例をさらに細則化するという作業は、現場でするしかないんじゃないでしょうか
今回成立したギャンブル依存症に対する条例。果たして、どこまで効力を発揮できるのか。さまざまな事態を想定した仕組み作りが求められる。