アジア太平洋研究所(APIR)が5日発行した令和4年版の「関西経済白書」では、足元について中間所得層の減少を課題としつつ、半世紀にわたる関西の地盤沈下の原因に関しては、公共工事を中心とした投資不足にあると指摘した。7年の大阪・関西万博や、それに続くカジノを含む統合型リゾート施設(IR)に向けた関連投資が反転の起爆剤になると予測。一方で関西と結びつきの強い中国経済の動向をリスク要因として挙げた。
「新型コロナウイルス禍により大幅な調整を迫られたが、関西経済反転の可能性は万博の開幕を間近に控え現実味を帯びてきた」。APIRの稲田義久研究統括はこう指摘する。
白書によると、関西経済の全国シェアは昭和45年の大阪万博後に急速に低下した。関西経済の名目域内総生産(GRP)と名目国内総生産(GDP)の比較で、関西経済のシェアは同年度にピークの19・3%を記録したが、平成元年度には16・2%まで低下。現在は15%台で推移している。
また、経済成長率は投資率(GDPかGRPに占める、民間企業や日本郵政など公的企業の設備投資、政府の投資を合計したものの割合)と比例関係にあると指摘した。
関西の投資率は、昭和40年度から平成8年度まで全国の投資率を一貫して下回っており、この格差の主要因は公共工事を中心とした公的部門だった。白書は、関西で投資額が1兆円増えれば経済成長率を0・54%引き上げると推計。令和7年の万博やその先のIRに向けて、国内外から投資を呼び込めれば関西経済の反転は可能とする。
稲田氏は「関西の高速道路は、首都圏と比べて空港や港湾にアクセスする道路でミッシングリンク(未整備区間)が多く存在し、都心部での渋滞緩和に必要な環状ネットワーク化も遅れている」と指摘する。
前回の万博以降、公共工事の投資不足が関西の経済成長を阻害してきたとした上で、「阪神高速『淀川左岸線』2期区間など、関西全体のポテンシャルや生産力を上げるため交通インフラ整備を進めることは重要だ」と語った。
一方、白書は欧州連合(EU)がエネルギー関連中心にロシアへの依存度が非常に高く、さらにEUと中国が貿易依存関係にあることに懸念を示した。
ロシアからの輸入が途絶えればEU経済は失速し中国経済の減速を招く恐れがあり、関西の対中貿易のシェアは輸出入とも日本全体の数値を上回る。
白書は「関西経済は高度に中国経済に依存しているのが特徴。EU経済の減速は中国経済に波及し、対中貿易依存度が高い日本および関西にとっては、大きな逆風となる」と警鐘を鳴らした。(井上浩平)