香港を代表する古参の大手財閥、新世界発展が逆風にさらされている。
主力の宝飾品販売や不動産開発は商品力の低下や中国本土での経済減速を受けて低迷。中国共産党指導部との良好な関係をテコに成長を遂げるモデルも、中国自体が経済力をつけるなかで限界が透ける。航空機リースやオーストラリアでのカジノリゾートといった新規事業を立ち上げ、収益源の多角化を探るが、道は平たんではない。
香港中心部。新世界発展グループの中核企業、周大福珠宝集団の宝飾品店を訪れた会社員、王婷婷さん(26)はつぶやいた。「指輪のデザインが今風じゃない。ティファニーの方がいいわ」
香港や中国本土を中心に2300店超を展開する周大福。同社の商品は贈答品として人気が高く、貯蓄・投資向けにも好まれる金製品を主力とする。だが、年配の顧客に「信頼のブランド」の商品も、今の若者には古くさく映る。
7日発表した2016年3月期決算が苦境ぶりを物語る。純利益は前の期比46%減と6年ぶりの低水準。グループを率いる鄭家純主席は「高額消費のパイが以前よりはるかに小さくなった」と嘆く。習近平指導部が12年から始めた倹約令の影響が業績低迷の大きな要因ではあるが、一定の購買力がある若者を引きつけられない商品構成にも問題はある。
より心配なのが利益の大半を稼ぐとみられる不動産開発の新世界発展だ。15年7~12月期の純利益は前年同期比で4割以上落ち込み、16年6月期通期でも大幅減益が見込まれる。不動産市況が低迷する中国本土の不振に加え、お膝元の香港でも公有地の入札で「資金力で勝る中国本土系企業に香港系が競り負けるケースが増えている」(不動産関係者)。
次の成長の種を探さなければ鄭一族が築き上げてきた事業基盤が揺るぎかねない。一族は多角化にカジを切った。
グループのインフラ子会社、新創建集団を通じて参入したのが航空機リース事業。15年にアイルランド企業に出資し、今年3月には米大手アビエーション・キャピタル・グループと共同出資会社を設立した。
2社は今後3年間で30億ドル(約3200億円)超を投じて航空機を大量調達、市場が拡大する格安航空会社(LCC)など向けに提供する構えだ。家純氏の次男で、新創建取締役の鄭志明氏は「長期的に現金を生み出し、グループの重要な収益源になる」と強調する。
豪東部ブリスベンではカジノを核とした統合型リゾートの開発権を取得した。豪カジノ大手などとの共同プロジェクトで、総事業費は20億豪ドル(約1600億円)に上る見込みだ。
同じ香港財閥で李嘉誠氏が率いる長江実業グループも欧州でインフラ事業のM&A(合併・買収)を進め事業の多角化を急いでいる。成長の土台をつくった中国本土は重要市場には違いないが、そこに依存するだけでは次の成長は見込めないためだ。
ただ、新世界発展の多角化は緒に就いたばかり。「投資を収益として回収できるのは当面先」とみずほ証券アジアの金増祥氏は指摘する。何よりも未経験の分野への大規模投資にはリスクが伴う。グループが抱える資産を生かしながらいかに早く新規事業で収益を上げるか。市場はその行方を注視している。(日本経済新聞)