内閣官房関係者「日本はTPP加入ならカジノ解禁する状況に」
「この“カジノ解禁法案については、関係する国会議員だけでなく、霞が関サイドも積極的に動いていると言っていい。しかし政治家と違って官僚サイドは、まったくの隠密行動に徹しているため、外部から彼らの動きはまったく見えないと思いますが……」
内閣官房の中枢スタッフがこう言ってみせる。
去る4月28日、自民、維新、次世代の三党が、「統合型リゾート(IR)の整備を促す法案」、いわゆる“カジノ解禁法案”を国会に再提出した。自民党としては、今国会での成立を目指していく方針を固めているが、連立パートナーである公明党がこの法案に対して慎重姿勢を崩していないため、法案成立の見通しはまだ立っていないとする受け止め方が大勢を占めていると言っていいだろう。
「しかし水面下では、法案の成立を前提に様々な動きが起こってきているのです。内閣官房には、国交省から出向してきている審議官をキャップにする形でカジノ推進チームが、密かに立ち上がり、候補地の選定作業も含めて具体的なプラン作りに着手しています」(前述の内閣官房中枢スタッフ)
このカジノを核とするIRの所管については、直接的には内閣府だが、実質的には国交省、警察庁、経産省、財務省、といった四省庁の共管となることがほぼ確定している。
「この四省庁が関わってくるということは、ある意味で『オール霞が関』の体制で対応するということに他なりません。カジノは、官庁にとっても大きな権益となるビッグプロジェクトなのです」(国交省幹部)
こうした水面下の動きを見ていくと、カジノを中核施設とするIRの設置は、意外にも既成事実化していることが良くわかる。それにしてもいつのまに、そしてなぜ、こうした状況に至ったのだろうか。
「今から申し上げることは、政権内部でも『極秘』として扱われていることなのですが、実はカジノ構想はTPP交渉と密接に絡んでいるのです。具体的には、日本がTPPに加入することになれば、どうしてもカジノを解禁せざるを得ない状況が生まれてしまうのです」(前述の内閣官房中枢スタッフ)
改めて説明するまでもなく、TPP交渉がまとまるか否か、その最大の焦点は、日米間の協議の行方にあると言っていい。この両国間の協議では自動車と農産物の両分野でまだ溝が埋まっていないものの、「日米合意に至るのは、もう時間の問題」(自民党の有力国会議員)という。
TPPの対象となっているのは、関税の原則撤廃にとどまらず、貿易や投資、競争政策など、国と国との間で発生する様々な経済活動に関わる分野に及んでおり、現在21の分野で交渉が行われている。
その“21分野”の中に、「越境サービス貿易」と称される分野があり、サービス分野の貿易に関してのルール作りが進められている。
「良く知られるようにTPPの交渉内容については参加国にしかオープンにされず、しかも交渉担当者は守秘義務を負っているため、具体的にどんな交渉が行われているのかほとんど公表されていません。実は『越境サービス貿易』でカジノビジネスが俎上に載っているのです」(前述の内閣官房中枢スタッフ)
つまり霞が関サイドは、こうした状況を把握しているからこそ、カジノ解禁に向けての動きを本格化させているのだ。
一方永田町においては、約220名の国会議員からなる「国際観光産業振興議員連盟」(通称IR議連、会長・細田博之自民党幹事長代行)が中心になる形で、カジノ解禁を推進している。
「そしてその中心となっているのが、細田IR議連会長、下村博文・文科大臣、岩屋毅IR議連幹事長、そして安倍首相の側近である萩生田光一自民党筆頭副幹事長の4人なのです。この面子を見ても、カジノ解禁が安倍─麻生ラインを軸に進んでいることがわかるはずです」(前述の自民党有力国会議員)
こうした状況を見る限り、カジノ解禁は水面下では既に既定路線となっているようだ。
by 須田慎一郎氏(ジャーナリスト)
TPP
Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement
環太平洋戦略的経済連携協定の略称。
シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が参加する自由貿易協定で、2006年5月に発効した。さらに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、新たな枠組みの合意に向けて9カ国で交渉している。米国は11年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までの合意を目指しており、日本も参加を検討している。
TPPは、自由化レベルが高い包括的な協定だ。モノやサービスの貿易自由化だけでなく、政府調達、貿易円滑化、競争政策などの幅広い分野を対象としており、物品の関税は例外なく10年以内にほぼ100%撤廃するのが原則。
APECの目標を共有し、より広範な自由化を進めることが協定の目的とされ、加盟国の合意によって参加国を拡大できる。09年の米国の参加表明によって関心が高まり、参加国の増加が見込まれており、アジア太平洋地域の新たな経済統合の枠組みとして発展する可能性も指摘されている。
日本では、菅直人首相が10年10月、TPPへの参加検討を表明。参加による政治的・経済的な意義に加え、参加しなければ自動車や機械などの日本の主要産業が自由化でリードする韓国と比べて海外市場で不利になるなどの試算もあり、経済団体を中心に参加を支持する声が大きい。一方で、関税撤廃による国内農林水産業への影響などを懸念して、農協や漁協などの生産者団体を中心に、参加に反対する意見もある。