カジノの街から大衆リゾートへ、賭博収益減少でマカオが路線変更
ギャンブルの聖地として知られる中国の特別行政区マカオ(Macau)が、富裕層をターゲットとしたカジノ特化型の観光産業から、ファミリー向け複合リゾート施設の開発へと方向転換しようとしている。
背景には、中国政府が進める反腐敗運動や中国経済の鈍化を受けてカジノ収益が急激に落ち込んでいる現状がある。
とはいえ、エンターテインメント中心の巨大リゾート施設をマカオ観光の目玉にして新規の訪問客を呼び込もうという作戦の先行きは、順風満帆とは言い難い。
マカオの老朽化したインフラは今でさえ、観光客の多さに悲鳴を上げている。専門家や地元住民からは、大金を落とすカジノ客の減少による損失を補えるほど多数の観光客をさばききれるのか、疑問の声が上がる。
香港の公立大学、香港教育学院(Hong Kong Institute of Education)のソニー・ロー(Sonny Lo)教授は、マカオ再生計画が成功するか否かは、大衆向け賭博と賭博以外のエンターテインメントの両方を消費者がどの程度求めるかにかかっていると指摘。それでも、この10年間の繁栄には及ばないとの見方を示した。「一般の消費者では、VIPルームに投じられた巨額の金を補てんすることはできない」
マカオは2001年にカジノ経営権を外資に開放した後、急激な成長を遂げ、米ラスベガス(Las Vegas)を抜いて世界最大のカジノ都市となった。2014年のカジノ収益は、ラスベガスの7倍超に達した。
だが、今年4月のカジノ収益は前年同月比で39%減少し、11か月連続の減収となった。習近平(Xi Jinping)中国国家主席の推進する反腐敗運動が、マカオで金を使ったりマネーロンダリング(資金洗浄)を行ったりする官僚を厳しく取り締まっているためだ。
マカオは今、ラスベガスの先例に倣い、カジノ特化型観光地からより幅広いアトラクションを揃えたリゾート地への変革を迫られている。各カジノホテルが構想する新リゾート施設では、高級レストランやショッピングモール、遊園地やショーなど、ギャンブルにとどまらない多彩な娯楽を提供する。
カジノ運営大手メルコ・クラウン・エンターテインメント(Melco Crown Entertainment)が年内に開業予定の複合施設「スタジオ・シティ(Studio City)」は、アジア随一の高さを誇る観覧車が売りだ。
この春開業したばかりのギャラクシー・エンターテインメント(Galaxy Entertainment)のリゾート「ギャラクシー・マカオ・フェーズ2(Galaxy Macau Phase 2)」の屋上には、「波のプール」が設置された。
来年には、米ラスベガス・サンズ(Las Vegas Sands)の子会社サンズ・チャイナ(Sands China)が、仏パリ(Paris)をテーマにエッフェル塔(Eiffel Tower)のレプリカを備えた複合リゾート施設をオープンする予定だ。
■ あふれかえる観光客
マカオの路線変更は必要不可欠という点には専門家も同意する。だが、その実現には複数の大きな壁が立ちはだかる。
マカオは、人口63万6000人に対し、観光客数が3150万人(14年時点)にも上る。うち3分の2が中国本土からの観光客だ。
「税金を使ったインフラ整備は遅れている」と、地元の英字経済誌「マカオビジネス(Macau Business)」 の発行人、パウロ・アゼベード(Paulo Azevedo)氏は指摘する。「大衆向け市場で(VIP市場を)補てんするのは可能だ。ただし、観光客の増加に対応する準備が街に整っていなければ、大衆向け市場の成長は望めない」
マカオ政府が中国本土からの観光客数を制限し、現状の2100万人程度に抑える政策を打ち出したことも、新リゾート開発の足かせとなっている。地元住民は、大量の観光客によって既に市民生活が圧迫されていると不満を漏らす。「日用品も買えないし、バスにもタクシーにも乗れない」
中国本土からの観光客のマカオへの関心が薄れてきていることも問題となっている。マカオには世界文化遺産に登録された「歴史市街地区」などの観光資源もあるが、「本土の人々は香港やマカオから遠ざかり、新たな体験を求めている。反腐敗運動もこの傾向を増幅させている」と、証券大手CLSAの報告書は述べている。飲食代や宿泊費の高さもマイナス要因だ。
一方で、マカオの変革を新たなスタートと前向きにとらえる動きもある。中国・深セン(Shenzhen)から来た学生(22)は「カジノだと、子どもたちを連れてきて遊ぶ場所としてはふさわしくないけれど、家族向けの施設も併設されるなら、子どもや年配者と一緒にくつろげる。それは、とてもいいことだと思う」と話した。
(c)AFP/Laura MANNERING, Aaron TAM