海外の馬券が日本でも買えるようになる? その真意とは……
カジノ合法化が検討されているさなか、急浮上したのが海外の競馬レースの馬券を日本で発売できるようにする法改正(競馬法改正)だ。
■ 強くなった日本の馬
近年、日本の馬は質がアップし、海外の大レースに出走しても互角に戦えるようになってきた。
ディープインパクトやオルフェーヴルといった最強馬たちは惜しくも凱旋門賞で3着と2着に敗れたものの、ヴィクトワールピサは世界最高賞金額のドバイワールドカップで優勝する快挙を達成している。
昨年もジェンティルドンナとジャスタウェイがドバイのレースを快勝し、ジャスタウェイについてはその圧勝ぶりが評価され、サラブレッドの強さを示すレイティングという指標で世界ランキング1位に評価された。
それ自体は喜ばしいが、その反面、皮肉なことも起きている。
■ 日本馬が強くなるほど国内の馬券が売れない?
日本の名馬が海外レースに出た場合、日本ではその馬券を買うことができない。買いたい人は現地まで行くか、あるいは欧州のブックメーカーで買うことしかできない。
つまり日本馬が強くなり、海外で活躍するようになればなるほど、日本人のお金が海外に流出するという皮肉な状況となっている。
しかも人気馬が海外に行ってしまえば国内のレースはつまらなくなり、その分、馬券も売れなくなる。つまりファンが海外で馬券を買う一方、国内のレースが売れなくなるのだから、主催者のJRA(日本中央競馬会)や、そこから国庫納付金(税金に準ずるもの)を得ている国としてはダブルパンチともいえるのだ。
■ 海外のレースを日本で買えるよう法改正を進める
そこで浮上したのが、海外レースの馬券をJRAで発売できるようにする案だ。
関係者を取材したところ、農林水産省ではすでに法改正のための準備が行われており、通常国会に競馬法改正案が提出される見込みとのこと。政府・自民党も今回の法改正を行うことを明言している。
でも、今回の法改正はなぜこれほど迅速に行われるのか? 何事を変えるにも常に時間がかかる日本の政府が、これほどスピーディーに作業を進めるのは珍しい。その真意はどこにあるのか?
■ 政府の早い対応の真意は?
政府が対応を急ぐ理由の1つとして、海外で消費されてしまう日本人のお金を国内で落としてもらおうという考えがある。しかし海外まで行って馬券を買うファンなど微々たるものだ。
やはり大きな理由は、海外のG1レース(=最高グレードのレース)を日本で売れば、1レースあたり数十億円の単位の売上が見込まれる点だ。さらに凱旋門賞といった日本で人気の高いレースともなれば、「日本ダービー」や「有馬記念」といった日本の国民的レース並みに売れることも期待される。
それなら人気馬が不在となることのダメージを補って余りあり、しかも海外の人気レースを日本に居ながら買えるのだから、まさに新しいG1がまるまる増えるようなものだ。
この動きにはさらに大きな理由がある。
■ JRAが事実上のブックメーカーとなる!?
海外のレース(=スポーツ、競技)の投票券を日本のJRAが売るということは、JRAが「ブックメーカー」となることを意味している。
ブックメーカーとは、スポーツをはじめとする競技の結果を予想し、掛け率(オッズ)を決め、投票券を発売する事業者。つまりスポーツベッティングなどを行うギャンブルの主催者だ。
イギリスを代表として欧州には政府公認のブックメーカーが数多く存在する。日本の大相撲も賭けの対象となっているし、2020年の夏季五輪「招致レース」もギャンブルの対象となっていた。当然のことながら競馬も対象だ。
つまりJRAが海外競馬の馬券を売るということは、JRAが「競馬に限定したブックメーカー」になることと同義なのだ。
■ カジノより先にブックメーカーが誕生?
今回の法改正のポイントはそこにある。
現在のところ、スポーツを賭けの対象とするギャンブルは日本の法律では認められておらず、国内のサッカーを対象したサッカーくじ「toto」が行われている程度。そんな日本でいきなりブックメーカーを合法化するのはハードルが高い。
さまざまな反対に遭い、合法化が遅れ気味のカジノとは違い、海外レースの馬券を国内レースと同じシステムで売るだけなら形としては何も変わらない。
そこでまず競馬限定でブックメーカーとしての壁をクリアし、後からその対象を広げるのであれば、新規に法律を作るよりもはるかにハードルが低い。
日本版ブックメーカー誕生が、にわかに現実味を帯びてきたといえるだろう。
(by All About 松井政就氏)