大阪湾岸の埋め立て地を万博・IR会場とする試みだが、工事が進むほど、不安定な地盤によって引き起こされるリスクが表面化。790億円の“公費投入”に加え、アクセス道路の建設費は当初予定の最大2.5倍にも上る。20回超にわたり公開予定の特集『「大阪」沈む経済 試練の財界』の#6では、暗雲垂れ込める計画に対して二の足を踏む関西私鉄の事情や、オリックスらIR事業者の“要望”に振り回される大阪市の公費負担の“泥沼”を精査する。
南港の旧WTCでホテルが家賃滞納、訴訟にさらに遠い夢洲で万博、IRを危ぶむ声多数
大阪湾岸での公金の“無駄遣い”は、大阪市民だけでなく多くの大阪人にとって、実に忌まわしい記憶だ。多額の費用を投じて巨大なハコモノを建てたが、大阪経済の成長に何ら貢献することなく、負の遺産として残っているからだ。
今年6月、大阪南港にある大阪府咲洲庁舎に入居する「さきしまコスモタワーホテル」が2年半前から府に支払う家賃を滞納し、その額は20億円に上ると在阪メディアが報じた。
新型コロナウイルスの感染拡大前の2018年に府がホテルを誘致したが、いかんせんミナミや梅田から遠く、客足は伸びなかった。府は家賃の支払いを求めてホテルを提訴。一方でホテルは、エレベーターの昇降時の騒音が客室に響き改修を要するとして、その費用を家賃相当額と相殺するよう府に反訴している。
超高層ビルである大阪府咲洲庁舎はかつてワールドトレードセンタービルディング(WTC)と呼ばれ、バブル期に建設。大阪市などが出資する第3セクターが運営していたが、テナント入居が難航し経営破綻。現在、大阪府知事や大阪市長のポストを手にし、府議会や市議会でも多くの議席を持つ大阪維新の会は、こうした行政主導の乱開発を厳しく批判してその勢力を広げてきた。
そんな維新の目玉政策が、この咲洲からさらに遠い埋め立て地・夢洲を舞台とした25年開催予定の大阪・関西万博であり、20年代後半に開業予定のカジノを含むIR(統合型リゾート)施設の開業である。
現在夢洲では、土壌の整備や地下鉄の延伸工事などまさに開発が進むが、その費用は想定を上回って推移する。維新の最高実力者である松井一郎大阪市長や、コロナ対策で何かと注目を集める吉村洋文大阪府知事、そして維新の地方議員らは、これらの費用を「将来に向けた投資」だと盛んに訴えるが、コロナ禍など不測の事態が続き、先行きを危ぶむ声は増えている。
とりわけ夢洲の土壌汚染や液状化対策に要する790億円を市が特別会計から支出すると昨年12月に表明してから、地元の世論は大きく変化した。IRの事業者であるオリックスなどはさらなる対策を求めており、関係者はさらに数千億円も費用が膨らむと懸念する。万博会場へのアクセス改善を目指す道路工事では費用が数倍に膨らむ見込みだ。
そして、関西財界で重きを成す鉄道各社は、万博とIRをビジネスチャンスと捉えつつも、とりわけIRへの逆風から慎重な姿勢を崩さない。コロナ前からうわさされてきた延伸計画は、幻に終わる可能性が出てきた。
行政の無駄遣いを厳しく批判してきた維新は苦しい言い訳を繰り返している。維新肝いりの目玉政策が新たな無駄遣いとなり果てるリスクはないのか。大阪経済をむしばむ新たな不安の根源を子細に検証する。