カジノを含むリゾート施設の誘致を巡る議論で、増加が懸念されるギャンブル依存症。今年春に山口県内であった誤給付金を巡る電子計算機使用詐欺事件の被告のようにネットカジノの深みにはまる人も増えているという。一体どんな病気なのか。家族はどう関わればいいのか。ギャンブル依存症問題に詳しく、この夏、神戸で開かれた依存症当事者や家族の支援を考える意見交流会で講演した昭和大付属烏山病院(東京都)精神科の常岡俊昭医師に改めて聞いた。
■脳の機能障害 依存「意志の弱さ関係ない」
ギャンブル依存症は脳の機能障害。快楽物質と呼ばれるドーパミンが依存対象にだけ放出されやすくなり、それ以外の刺激では出にくくなる。常岡医師は「嫌な気持ちを抱えている時などに、ギャンブルや酒で気分が晴れた経験などが入り口になりやすい。誰しもなりうる可能性がある病気だ」と説明する。
では、のめり込んでしまうのはなぜか。「刺激に対して少しずつ耐性ができ、つぎこむ時間やお金が増える。するとギャンブルを楽しんでいたはずが、支配されるようになるのがその理由だ」と常岡医師。
一方、なかなかやめられないことについてこう強調する。「意志が弱いからではない。やりたくなるのは症状。ぜんそくの発作を気合で抑えられないのと同じで、やめることと意志の力は関係ない」
■人頼ること大切「完治はないが、回復可能」
残念ながら現段階では、ギャンブル依存症の欲求を抑えるような特効薬はない。無理やりやめさせれば、アルコールなど他への依存が始まるか、自ら命を絶ってしまうこともあるという。常岡医師は「ギャンブルがいわば人生の松葉づえになっているために、取り上げてもつらい状況に戻るだけ。代わりの何かが必要」とする。
このため、回復には、自助グループ、家族会などへの参加が大きな助けになる一方、家族だけでの解決は難しいという。借金問題が絡むため、家族も問題に巻き込まれ冷静でいられなくなるからだ。
「診察室で自助グループの代表らに電話をかけ、当事者に紹介することもある。人を頼ることを知り、依存先を増やす。仲間を新しい松葉づえにすることが大切」
最後に常岡医師は次のように力を込めた。
「近視は基本的に治らないが、眼鏡をかければ生活できる。依存症もケアを続ければもっと充実した生活を送ることもできる。ギャンブル依存症に完治はないが、回復は可能。やめさせるのを目指すのではなく、やらざるを得なくなった状況を変えることが大切だ」
【ギャンブル依存症】社会生活に悪影響があるにもかかわらずギャンブルをやりたい衝動が抑えられなくなる精神疾患。貯金を使い果たしたり、借金が膨らんだりし、窃盗や詐欺などの犯罪行為や、うつ病、自殺などの問題が生じることがある。
■「やめたいのにやめられなかった」元当事者、トラブルをチャンスに
神戸で開かれたギャンブル依存症当事者らの支援の在り方を考える意見交流会では、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都)の代表で、元当事者の田中紀子さんも講演した。要旨は次の通り。
私は夫に誘われて競艇にはまり、30代の10年間はギャンブルと借金で苦しんだ。30代で世帯年収が2千万円ほどあったが、それでも借金で首が回らない。ずっとやめたいのにやめられなかった。自助グループとつながってからも、回復に4年かかった。
借金返済を巡るトラブルや横領の発覚、退学、逮捕などは、当事者にとって最大のピンチであると同時に、回復のチャンス。自助グループや病院、回復施設などにつながる機会になる。
家族による借金の肩代わりや金銭管理は回復を遠のかせる。当事者に自身に問題が生じていることを体感してもらうことが重要だ。
依存症の家族会は、他の家族を助けながら、自分にチャンスが回ってきた時にどう対応すべきか学ぶ場所。誰かを助けている人が、後々助かる仕組みになっている。
私は自助グループとつながって3年目、1500万円ほどの借金を完済した時がどん底だった。人生の目的を失い「死のう」と思った。回復できたのはグループの仲間のおかげ。ギャンブルをしたくなると泣いて電話をかけ、一晩中付き合ってくれた。
同じ問題を抱える仲間の役に立つことで、最悪の経験が価値に変わる。落としどころを見つけられたことが、やめ続ける理由になっている。今つらい状況にある家族や本人も、回復できると信じてほしい。