人口3085人の山口県阿武町で、新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金463世帯分が誤って給付されたのは4月8日のこと。起訴された男の注目の初公判が5日、山口地裁で開かれた。
山口・阿武町4630万円誤送金「元ギャンブル狂」24歳男が単身で清貧生活を送っていたワケ
オンラインカジノを利用するため、4630万円を別の口座に振り替えたとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた田口翔被告(24)は起訴内容を認めたものの、弁護側は「罪が成立するか争う」と無罪を主張した。
田口被告は当初、「金はネットカジノで使い果たして残っていない。働いて少しずつ返していく」と語っていたが、事件はその後、急展開した。
町側は田口被告が国民健康保険税を滞納していることに目を付け、口座がある銀行に情報提供を求め、振替口座からオンラインカジノの決済代行業者3社を突き止めた。町が「国税徴収法」に基づく差し押さえ手続きを進めていたところ、ガサ入れを恐れた決済代行業者が、町の口座に約4299万円を返金。町は残りの約340万円も確保し、9月22日、田口被告が解決金を支払うことで、和解が成立した。
■どちらも決め手なし
電子計算機使用詐欺罪は、コンピューターシステムに嘘の情報を入力して利益を得ることによって成立する。誤振り込みと認識しながら銀行に伝えず、他の銀行口座に振り替えた行為が「虚偽情報」の入力に当たるかどうかが争点となる。
弁護側は「1996年に最高裁は民事訴訟の判決で『ミスの有無など経緯を問わず、振り込まれた資金は自由に引き出す権利が認められる』と判断している。銀行側が誤給付のことを知っていると考えていたため、被告には告知する発想がなかった。虚偽情報の入力もしていない」と主張した。
一方、検察側は「誤振り込みと知りながら、正当な権限がない状態で振り替えの依頼をし、虚偽情報を入力した」としている。最高裁は03年に詐欺罪に問われた刑事事件の判決で「誤振り込みがあると知った受取人が、その事情を黙って銀行口座で貯金の払い戻しを受ける行為は詐欺罪に当たる」と認定している。
過去の判例も割れる中、今後の裁判の行方はどうなるのか。山口宏弁護士に聞いた。
「『被告の意思に合致した情報を入力しているから虚偽ではない』という見方と、『誤送金と知りながら黙って入力すれば返せなくなるので虚偽』と見解が分かれています。どちらも決め手がなく、虚偽の電磁的記録を入力したと言えるかどうかです。民事裁判では『預金を引き出す権利がある』と言いながら、刑事裁判では『引き出したら詐欺だよ』と判断したことが、混乱のもと。いくら民事で預金払い戻し請求が認められたといっても、誤送金された金を勝手に振り替えても無罪放免となったら、今後、同じことが起きても返さないでしょう。誤送金された金を使っても罪に問われないとしたら、世の中に与える影響が大き過ぎます。だから裁判所は電子計算機使用詐欺罪が成立することにするのではないか」
最後の最後までお騒がせな事件だ。