新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が、各国の統合型リゾート施設(IR)運営事業者に打撃を与えている。米国やシンガポールでは施設閉鎖が相次ぎ、マカオも中国本土からの入境制限などで施設の稼働率が低迷している。収入が激減するなか、巨大施設を維持するための費用だけがかかる状態は事業者の財務状況に深刻な影響を与えかねず、日本進出を狙う各社の戦略にも影響を及ぼしかねない。
■「経験のない事態」
「われわれはいま、経験したことがない厳しい事態に直面しています。大切なのは、皆さまとご家族の健康と安全を守ることだということを理解していただきたい」
米MGMリゾーツ・インターナショナルのビル・ホーンバックル最高経営責任者(CEO)代行は、顧客に向けたビデオレターで米国内の施設閉鎖に踏み切った理由をこう説明した。
米国では3月以降、ニューヨーク州などを中心に新型コロナの感染拡大が急速に進展し、死者数も急増。トランプ大統領は3月13日に「国家非常事態」を宣言した。MGMは米国を主要市場としているが、同16日までに米国内のすべての施設を臨時閉鎖。ラスベガス・サンズやウィン・リゾーツなど、他の米国のIR事業者も相次ぎ施設を閉鎖した。
■域外から訪問者なし
同様の事態はアジアでも広がる。シンガポールのIR事業者、ゲンティン・シンガポールは4月6日、同国内で運営する「リゾート・ワールド・セントーサ」のカジノ施設や水族館、テーマパークのユニバーサル・スタジオなどを臨時閉鎖すると発表した。IR閉鎖の動きはマレーシアやフィリピンでも進む。
一時閉鎖した後、2月下旬にIR施設を再開させたマカオでも、厳しい状況が続く。新型コロナ対策として外国人の入境を禁じているほか、中国本土や香港、台湾からの旅客も2週間の待機などの規制を行っており、域外からマカオへの訪問者はほとんどないとみられる。香港在住の関係者は4月中旬、産経新聞の取材に「香港とマカオを結ぶ橋が封鎖され、フェリーも運行しておらず、域内の詳細な状況をうかがい知ることができない」と話した。
マカオは香港系のギャラクシー・エンターテインメント・グループやメルコリゾーツ&エンターテインメントが主要市場としている。マカオの情勢は、IR施設が再開されても新型コロナの影響が世界的に広がっている状況下では、その運営が極めて困難であることを物語っている。
■日本の計画縮小も
新型コロナによる混乱は、日本進出を目指すIR事業者の戦略にも影響を及ぼしつつある。
大阪府の吉村洋文知事は3月27日、6月ごろを予定していたIR事業者の選定を9月に延期し、2025年大阪・関西万博前の開業も断念する方針を表明した。
大阪ではMGMとオリックスの連合のみが参入を目指す意向を示しているが、府市のIR推進局によると、米国内での新型コロナ感染拡大による事業活動への影響を受け、MGM側からも延期の要請があったという。府市はIRの早期開業で万博との相乗効果を狙っていたが、当てが外れた格好だ。
各国のIR施設閉鎖が、事業者の経営状態にどう影響するかも注視される。IRは施設維持費や人件費など「固定費が大きい産業」(金融業界関係者)で、施設閉鎖はそのまま大幅な収益の悪化につながる。企業の財務状況に影響を及ぼす事態になれば、「日本で計画するIR建設費の資金調達に支障が生じたり、建設計画そのものの縮小を余儀なくされたりするケースもありうる」(同)との懸念がある。
米国では、カジノの産業団体が政府支援を要請する動きも見せているが、IR情報サイトを運営するキャピタル&イノベーションの小池隆由社長は「IR事業者が政府支援を受ければ、日本など米国外での大型投資案件の見直しを余儀なくされる可能性もある」と指摘している。(経済総合(産経新聞))