カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を誘致している大阪で、海外の大手IR事業者が受注を目指す動きを本格化させている。15日には香港のIR大手が大阪で施設のコンセプトを公開。米IR大手も大阪進出の意向をアピールした。大阪府の松井一郎知事は今夏にも運営事業者を選定する意向で、IR各社首脳は相次いで大阪を訪問し、知事との面談や計画のPRなどに余念がない。
■コンセプト映像公開
「大阪でのIRは、わが社が中国・マカオで保有する2つの巨大IRを合わせた規模より大きい」
15日、大阪市内で記者会見した香港IR大手、メルコリゾーツ&エンターテインメントのローレンス・ホー会長兼最高経営責任者(CEO)はそう強調した。
ホー氏は大阪で建設するIRのコンセプト映像を初公開。「シティー・オブ・フューチャー(未来都市)」をテーマに、日本の山並みを模した流線形で、カジノやホテル、商業施設、国際会議や展示会施設などを備えるという。総投資額は約1兆円を見込んでいる。
映像では、自動運転の電気自動車が敷地内を走る様子や、屋形船で人々が楽しむ姿などが描かれ、環境や伝統文化を重視する同社の戦略が強調されている。施設の詳細については「府・市が正式に事業者を募集する際に公表する」(ホー氏)としている。
■「大阪ファースト」宣言
米ウィン・リゾーツのマット・マドックスCEOも15日、大阪市内で産経新聞のインタビューに応じ、大阪のIR事業者選定に応募する意向を表明した。
マドックス氏は、IR建設地の夢洲(ゆめしま、大阪市此花区)への地下鉄延伸をめぐり、府・市がIR事業者に求めている約200億円の費用負担について、「自治体と共同でインフラ整備をしてきた経験がある。大阪でも可能だ」と述べ、応じる考えを明かした。
さらに米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人も同日、自社の経営資源を大阪に集中させる「大阪ファースト方針」を表明した。同社は「各IR候補地を比較・検証した結果、大阪を第1候補に決定した」と宣言。新たなオフィスを大阪市内に開設したことも発表した。
府・市はすでに事業者側に工事計画や資金調達情報の提供を要請するなど、選定プロセスに着手している。このため米MGMのジム・ムーレン会長が10日、松井知事と吉村洋文大阪市長を訪れたほか、ウィンのマドックスCEOも15日に知事を訪問。メルコのホー会長も近く訪れるという。
■「都構想」影響懸念も
大阪府の松井一郎知事は昨年12月、産経新聞のインタビューに、今年初めからIR運営事業者を選定する具体的な手続きに入り、今夏には決定したいとする意向を表明した。年初の記者会見でも、有識者らとともに事業者選定に入る考えを示した。
それに呼応するように、大阪府・市のIR推進局は情報収集を加速させた。各事業者には今月末までに、投資規模、収支計画、資金調達手法、中核施設、周辺環境の利用など多岐にわたる情報の提供と説明を求めている。
府・市はIR建設地の夢洲までの地下鉄延伸にあたり、IR運営事業者に費用を一部負担させる考えで、松井氏は総額約540億円のうち200億円の拠出を求めると明言している。15日に産経新聞のインタビューに応じたウィン・リゾーツ、記者会見したメルコリゾーツはともに資金拠出に応じる考えを示した。
ただ、大阪でのIR実現にはなおハードルが多い。
昨年11月に夢洲での2025年国際博覧会(万博)開催が決定したことを受け、府・市は目標とする24年中にIRを開業させたいとの思惑だ。しかし、国内で最大3カ所とされるIR建設地の決定スケジュールを政府は明示しておらず、大阪誘致の成否も含め流動的だ。
一方、大阪都構想をめぐり松井知事、吉村洋文大阪市長が辞職して選挙戦を仕掛ける可能性が浮上していることについて、一部のIR事業者から「IR推進に影響が出るのでは」と懸念の声も聞かれる。
ただ東京、横浜など他の大都市はまだIR誘致の意向を明示していない。IR各社は、事業者選定を急ぐ大阪に傾倒せざるを得ず、府・市が主導権を握った状況になっている。(産経新聞 黒川信雄氏)